旅立った言葉たちを探して・・・


by menesia

移転のお知らせ

いつもお立ち寄りいただきありがとうございます。
この度、このブログは、下記の場所に移転いたしました。

☆貴方の仮面を身に着けて☆
http://menesia.cocolog-nifty.com/morifacia/

今後ともよろしくお願い致します。


めねしあ
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# by menesia | 2010-06-01 06:08 | 記憶

揺れる風

心なき鉄槌の落ちた先には
震える薄い心があった

何も知らずに生きることを止め
何かを知ろうと身を晒し

そして心は痛みを知った

心なき鉄槌は止む事はなく
世界の扉を叩き続けている


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# by menesia | 2010-05-25 04:44 |

水の聖域

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# by menesia | 2010-05-24 21:31 | 記憶
竹生の部屋にたどり着くと、鵲は息を整えた。呼ばれもしないのにここまで来た。それだけでも鵲の中で臆する気持ちは強くなっていた。ここはいわば”聖域”なのだ。普通の盾ならば、その姿を見る事もかなわぬ、生ける伝説の住まう場所。
(私は、私は強くならねばならぬ。その為に来たのだ)

交代で派遣される警備部の者達は、伴野の小屋の二階に寝泊りした。屋敷詰めとなった高望と鳥船にも、鵲の部屋よりは狭いが、個室が与えられる事になっていた。三隅と須永の組は交代で専用の部屋を使っていた。鍬見も検診に定期的に訪れた。磐境と白神からの伝言と若手の監督も兼ねて、鹿沼も立ち寄る事が多かった。柚木と真彦は二階の中央が扉で繋がった部屋を与えられた。廊下を通らずに互いに自由に行き来が出来た。真彦の不安を和らげる為でもあった。

大所帯となった屋敷では、盾達も家事を手伝う事となった。身の回りの事は自分で始末する習慣のある彼等には、特に苦になる事ではなく、桐原の指示に従い黙々と働いていた。利口な一棹のような盾は、伴野と庭掃除をしながら、庭の地形や木の位置、足場となる場所を覚えこみ、いざという時に役立てようとしていた。津代のお気に入りの鹿沼は台所の手伝いが多かった。表情の変わらない鹿沼だが、むしろ嬉々として手伝う気配がしていた。食事時は、台所は食欲旺盛な盾であふれかえる。津代は盾の寮の頃を懐かしがり、彼らに少しでも美味い物を食わせようと、工夫と算段をするのであった。

変わらぬのは三階の暮らしだけであった。いつもひっそりと静かなままであった。用事のある者以外は上がっては行かず、竹生も朔也もめったに階下の者達の前に姿を見せる事はなかった。

鵲が叩く前に扉は音もなく内へと開いた。中から風が青く甘い香りを運んで来た。竹生が自分の入室を許可したのだと、鵲は感じた。
「失礼致します」
夜に満たされた部屋に、灯はなかった。部屋のあるじが必要としないからである。暗闇の中から声がした。声は夜の物憂さと安らぎを帯びてた。
「お前の心、定まったようだな」
「はい」
鵲は声のした方角に答えた。

風が吹いた。濃緑の厚手のカーテンが、レースの如く軽々と翻り、開け放たれた。窓から煌々と輝く月の光が差し込んだ。いつもの安楽椅子に竹生はいた。絹のゆるやかな黒いシャツとズボン、黒い繻子の室内履きの足がオットマンに投げ出されていた。片方の肘掛に肘をつき、竹生は白く繊細な指で顎を支えていた。さらさらと純白の髪がこぼれ、床に触れそうになりながら、月明かりを鈍く跳ね返していた。青く深い魔性の目が鵲を見ていた。鵲は何もかも忘れ果て、竹生に見惚れた。父の三峰に良く似た面差しだが、そこには美だけではなく、あらゆるものが存在した。誇りも気高さも恐怖も非情も、そこには人に敬いと畏れを与えてやまないすべてがあった。

「来い」
その声に我に返った鵲は、竹生の椅子の方に歩いていった。竹生の前に立つと、鵲の背筋は自然と伸びた。竹生はしばらくじっと鵲を見ていた。鵲も竹生を見ていた。見ていたというより、目が離せなくなってしまったのだ。”盾”始まって以来の最高の盾、村の守護者、”人でない”者、多くの伝説を持つ者。だがそこに居るのは、ただただ美しい姿をした者なのである。

「お前の望みを聞こう」
鵲は全身に絡みつく誘惑の如き甘い戦慄と呪縛に耐えながら言った。
「私を鍛えて下さい」
「何の為に」
「当主様と柚木を護る為に。そして一人でも多くを護れるように」
「今の己をどう見ている?」
「私は弱い、身も心も」
竹生は微笑した。それを目にした途端、鵲の緊張のすべてが解れ、鵲の身から力が抜けた。ゆらりと傾いだ鵲の身体は、素早く立ち上がった竹生の力強き腕に抱き取られた。

竹生は鵲を抱きしめた。竹生は鵲より背が高かった。白く長い髪がさらさらと帳となり、鵲は白い闇と青く甘い香りに閉じ込められた。頬を押し付けられた胸は温かかった。
「我が甥よ、三峰の子よ。聞くが良い。我等は人より優れた力を授かった故に、皆険しき道を歩む者。私もお前の父もそうだった。形は違えど多くの試練が与えられた。だが我等は今ここにいる」
恍惚として、鵲は竹生の言葉を聴いていた。
「お前も乗り越えよ。風の家の正統よ、未来の盾を率いる者よ」
鵲はようやく頷いた。声は出なかった。
「明日、お前の部下となる者達が来る。揃ってここに来い。盾は組で動く。三人三様に強さを求めねばならぬ。鍛えてやるとも、我が甥とその部下を。”外”の誰にも、己にも負けぬ程にな」


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# by menesia | 2010-05-24 00:48 | 小説(連載)
「柚木、そうじゃない!」
思わず鵲(かささぎ)は叫んでしまった。芝生に着地した柚木が怪訝な顔で鵲を見た。
「相手の攻撃を受けた時は、後ろにも風を置くのだ」
「後ろにですか?」
「そうすれば、剣だけではなく風でも相手を受け止める事が出来る。反動を用いて、より早く次の攻撃に出る事も出来る」
柚木の顔に尊敬の色が浮かんだ。
「さすが鵲さんだ」
「いや・・」
今の自分には風は使えない。それを鵲は思い出した。鵲は相手をしていた竹生に深々と頭を下げた。
「余計な事を、申し訳ありませんでした」
鵲は足早に屋敷の中へと入って行った。竹生は黙って鵲の背中を見送った。夜空には満ちて行く半分の月があった。

鵲はそのまま二階の自室に引き上げた。鵲は個室を与えられていた。作り付けの箪笥と寝台、書物机に棚。日常には何不足ない部屋であった。隅に簡素ながら洗面台と流しもあった。茶を沸かす位は出来る。寝台のある片隅は衝立で仕切っていた。ここで警備の打ち合わせをする事もある。個人的な空間と分けたかったである。書物机の椅子に腰を下ろすと、鵲は左の拳を右の掌で包んだ。そしてぎゅっと手を握り締めた。悔しかった。
(風の力さえ、力さえあれば・・)
柚木がまだ未熟なのは若いから仕方ない。それは許せる。だが自分の風を封じられた事を、鵲は未だに納得出来ていなかった。

顔でも洗って気分を変えようと、鵲は洗面所に立った。鏡に鵲の顔が映った。三峰ゆずりの色白の端正な顔の中で、赤い瞳がこちらを見ていた。。赤い瞳はイサクの血の作用だった。それは毒に侵されない唯一の盾の証。だが同時に風の力を失った証でもあった。鵲は大きく息を吐いた。漆黒の髪がさらさらと揺れた。髪は肩先まで伸びていた。風の力を持つ者は長髪の者が多い。風になびく髪の感覚で多くを知る事が出来るからだ。
(私には、もう・・必要ない)
大股で机に戻ると、引き出しから鋏を取り出した。再び鏡の前に戻ると、鋏でじゃきじゃきと髪を切った。黒くしなやかな髪が洗面台に落ちた。鵲は表情のない顔で鏡を見詰めながら、髪を切り続けた。

「髪をどうされたのですか」
廊下で行き会った千条が鵲に尋ねた。鵲は少し決まり悪そうな顔をして言った。
「鬱陶しいので、切りました」
「後ろが不揃いですね。揃えて差し上げましょう」
千条は鵲を自分の部屋へと導いた。椅子にかけさせると首の周りに白い布を巻いた。千条は専門家の使う髪切り鋏を出して来た。千条は鋏の穴に指を通し、少し笑って説明した。
「百合枝様の髪のお手入れも、私の仕事なのです。お屋敷の他の方の髪も、切って差し上げる事もあります」

鵲は大人しく俯き、うなじに鋏をあてる千条のされるがままになっていた。千条も風の家の者である。鵲の行為の意味を理解していた。自身も長く伸ばした髪を後ろにひとつに束ねていた。
「鵲様の剣の腕は、若手では抜きん出ておられる」
鵲は苦笑した。
「気休めはやめて下さい」
千条は世間話でもする様に言った。
「私はかつて盾ではなくなりました。この片足が不自由になったからです」
五体を損ねた者は盾を引退するのが決まりである。その事は鵲も知っていた。
「それでも竹生様は、私をここにお呼び下さった。百合枝様をお守りする為に」
「多少の不自由があろうと、貴方の強さは並の盾以上だと思われての事でしょう」
千条は微笑んだ。
「来てから、竹生様に鍛えられました」
「羨ましい。私も柚木の様に、竹生様にご指導を仰ぎたい」

「竹生様は、それをお待ちなのでは?」
「え?」
「今以上に、剣技を磨いて欲しいと」
ショキショキと快い音を立てて、千条は白いうなじの漆黒の髪を切り揃えていった。
「風の家の者は、風の力に頼り過ぎて、他が疎かになる者も多い。鵲様は努力しておられる。剣の腕は、まだまだ上達する見込みありと、私は見ています」
鵲は千条が自分を励まそうとしているのを感じた。
「ありがとうございます」

千条の声に強さが混じった。
「もっと上を目指して下さい。今のご自分に不満でしたら、もっと強くなる事を」
鵲ははっとした。
(そうだ、その通りだ。悩んでばかりいても仕方ないのだ)
「出来ました」
千条はささっと刷毛で細かい毛を掃うと白い布をはずした。鵲は立ち上がると千条に頭を下げた。
「貴方のおかげで、目が覚めました」
千条は微笑した。夜はそこまで来ていた。
「三階に行かれますか?」
「はい、竹生様にお願いしてみようと思います。駄目なら自分で鍛錬の方法を見つけます」
「その時には、及ばずながら、私もお手伝いを」
「はい、その時には」
鵲はようやく明るい笑顔を見せた。その顔は三峰に良く似ていると、千条は思った。鵲は出て行った。千条の”人ではない”耳は、鵲が階段を昇って行く力強い足音を聞き取っていた。


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# by menesia | 2010-05-20 04:56 | 小説(連載)